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モーターの話(第2回)電子制御
2022.12.12
前回、電気自動車はモーターで走るので、運転者の加速操作からトルク発生までの時間がほぼ無く、とてもレスポンスが良いということを書きました。このレスポンスの良さにより得られる効果は、運転時の気持ち良さだけではありません。
ドラッグレース(直線の加速のみで勝敗を決めるレース)がありますが、テスラは名だたる強豪車種をことごとく打ち破っています。なぜそのような快進撃ができるのでしょうか?
ドラッグレースでは、車の加速力が重要です。内燃エンジンやモーターが、強力であればあるほど速く加速できますが、電気モーターは停止から最大の加速ができるため、そもそもドラッグレースに適していると言えますが、実はそれだけが勝因ではありません。そもそも車両が加速するには、当然タイヤが地面と接触していなければなりません。それは内燃エンジンであろうと、モーターであろうと同じで、トルクが強力すぎるとタイヤを空転させてしまいます。そこで、より速く加速するためにタイヤを空転させない仕組みが考えられました。
タイヤにセンサーを取り付けて回転数を監視し、回転数が「急激に」上昇したことを検知して、空転したと判断する仕組みがトラクションコントロールの基本です。これは電子回路のみで構成されていますので、瞬時に判断されます。しかしその判断をした後の動作において、前回書いた内燃エンジンと電気モーターの違いが表れます。
内燃エンジンの場合、空転した瞬間にアクセルをOFFにする動作が電気的に行われますが、既にエンジン内に吸入した燃料はそのまま燃えようとしますので、すぐには出力が下がりません。しかしこれが電気モーターであれは、アクセルをOFFにした瞬間に出力が低下しますので、空転を素早く抑えることが可能です。当然、再び加速させる場合にも、同様の差が生じます。
この結果、空転を検知してから、出力を絞って、タイヤが地面に再び接地したことを検出した後、再び加速する、という一連のプロセスにおいて、それにかかる時間は電気モーターと内燃エンジンとの間では、埋められない大きな差があります。
これが、内燃エンジンのハイパワー車でよく聞かれる「トラクションコントロール機能はあるけど、意味ないよ。エンジンにパワーがあるからかな?」のような感想に繋がっていて、コントロールしきれていないことが伺えます。
これに対してテスラでは「雪道を走ったら、いつもより遅いとは感じたけど、意外と普通に走れた」という感想を聞きます。
いかに確実で高速なコントロールができているかを示す感想です。ちなみに、ほとんど聞きとることはできませんが、雨の日などにアクセルが一定なのにも関わらず、モーターの音程が「うにょんうにょん」と上下したときは、トラクションコントロールによりモーターが制御された証拠です。さらにデュアルモーター仕様の場合、モーターごとにそれが独立して行われるので、体感では滑ったことすら感じられないでしょう。
テスラではこのコントロールを、「コントロール」→「車両」→「スリップスタート」をONにしない限り、雪の日はもちろん、雨の日や、鉄製マンホールなど、タイヤが滑らないように常にコントロールされています。もし滑っても「きゅっ」と一瞬で回復し、最小限の空転で済みます。
さて、電気モーターではトラクションコントロールが有効に機能し、タイヤが大きく空転しないのですが、これにより生まれる他の効果があります。
自動車には、カーブをスムーズに通過するために、デフという機構が搭載されています。自動車がカーブを曲がるときには、必ず内輪と外輪とで走行距離の差が生じ、外側のタイヤのほうが多く回転することになります。この状態でもスムーズに走行するためには、内側のタイヤより外側のタイヤに対して、より大きな力を与えないと(=早く回転させないと)バランスを崩します。これを機械的に配分する仕組みがデフで、当然テスラにも搭載されています。
しかし、デフには欠点があります。トラクションコントロールがほぼ無い状態、例えば雪道などでアクセルを大きく踏み込むとタイヤは空転しますが、実はこのとき、片側だけが空転していることに気づきましたか?片方のタイヤが空転した瞬間、そのタイヤは「カーブの外側を走っている」のと同じ状況になるので、デフは空転しているタイヤに、より多くの力を配分しようとします。デフはほぼ100%の力を配分できますので、空転しているタイヤにほぼ全ての力が配分された結果、空転しているタイヤが全力で空転するだけで、車両は動かないという結果になります。つまり、カーブを走行するときは効果的であるものの、ひとたびタイヤが空転してしまうと、むしろ逆効果となるのです。
この現象に対する対策として、LSDという仕組みが開発されました。LSDは先ほどの「ほぼ100%まで力を配分」するデフの特性を制限します。LSDが搭載されると先ほどの状況が改善します。後輪駆動車の片側のタイヤが空転した瞬間に、デフは空転しているタイヤに全力を配分しようとするものの、それが制限されるので、残りの力で空転していないタイヤを回転させることができるようになります。結果として、確実に2輪が回転するので、雪道でもより安定して走行することができるようになります。
どう考えても有利なLSDですが、欠点もあります。当然ながら、機構として追加して存在するのでコストがかかることや、重量増などです。このような理由から、デフと違いLSDは、高性能車を中心に装着されています。
長々と書きましたが、高性能のはずのテスラにはLSDが搭載されていません。理由は不要だからです。というのも、LSDは先に書いたように「空転しないようにする」ためのものです。しかし、テスラは電子制御によりそもそも空転しないです。となると、空転しない状況においてLSDの存在は無意味です。これが、高度な電子制御によるトラクションコントロールが生んだ数あるメリットのうちの一つです。
次回は、テスラのモーターが一般的な自動車用モーターと異なる点と、交流モーターの駆動メカニズムについて書きます。
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