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モーターの話(第3回)モーターを回すためには?
2023.10.09
前回(第1回:モーターの特性、第2回:電子制御)までで、電気モーターはトルク発生までの時間がほぼ無く、レスポンスが良いので結果として車の構造も簡素になり安全に走れる、ということを書きました。今回は、そもそも電気でモーターをどのように回転させているのか、電気的な部分について書きたいと思います。専門的な内容になりますので、難しいかもしれません。
皆さんは、モーターと言えば何を思い浮かべますか?小さいものでは、プラレールやミニ四駆といったおもちゃにも使われていますし、手近なところでは扇風機や洗濯機もそうですね。大型のものでは、エスカレーターやエレベーターにも使われています。どの機器も、昔からモーターで動いていることに変わりはなく、おもちゃなどは今も変わることが無いのですが、実は大型のモーターでは、その手法が時代と共に大きく変わっています。
昭和の扇風機を思い出してください。そこには強風、弱風、切のような物理的なボタンがあると思います。このボタンを押すとその強さで扇風機が回るのですが、そのボタン数しか段階がありません。もし、この仕組みのまま電気自動車を作ったらどうなるでしょうか。走ることはできるでしょうけど、アクセルの踏み加減で調整できるのは数段階ということになり、スムーズな発進なんて夢のまた夢。なんなら走り出してからも、次段に切り替わるタイミングで毎回、モーターの鋭いレスポンスが悪く働き、ガクンという衝撃が来ることになるでしょう。
これを読んで、「いやいや、そんな乗り物あるわけないじゃん!」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、実はこの話、空想ではなく過去に実在した乗り物の話なのです。昭和初期に製造された電車はこの方式で、段階は20段階のように細かくなっているので、乗り心地はそれなりに確保されているものの、実は加速中にいちいちカクンカクンしていたのです。昔の電車に乗ったことのある方は、思い出してみてください。言われてみればそんな感じだった記憶がありませんか?電気モーターを乗り物に使い始めた当初は、ほんとにこのようなコントロールをしていました。しかし、乗り心地が悪いうえに、段階ごとに電流を制限するための抵抗器を用意したり、接続方法を変更したりしていたため、非常に大型、かつとても非効率な制御方法でした。
ここで、技術革新が起きました。パワー半導体の登場です。従来では不可能であった大きなモーターの電流の入切を、大きな物理的スイッチではなく、小さな半導体で電子的に行うことができるようになりました。実は、大きさが小さくなっただけでなく、その入切の速度が桁違いに速くなったことが大きな効果です。この入切の速度のおかげで、従来の方法とは全く異なる方法でモーターをコントロールできるようになりました。電源とモーターの間に、従来必要だった物理スイッチや抵抗器などを一切介さず、それらをまとめて半導体スイッチに置き換え、その半導体だけでモーターをコントロールすることができるようになりました。では、そのコントロールの方法を見てみましょう。
例えば1分間に、1回もスイッチがONにならなければそれはOFFです。一方で1分間スイッチがずっとONになっていたらそれはONです。30秒間スイッチが入って、残りの30秒が切れていたとしたら、それは50%のONと言えますね。1分間のうち15秒間だけ入っていたら、25%のONとなります。半導体スイッチは、とても速度が速いので、このようなスイッチの入切を、今の例えは1分単位でしたが、これが0.1秒単位のように、とても短い時間の中で行います。この結果、0%~100%の間で、自在に電流を操ることができるようになり、その変化も自由にコントロールできるようになった結果、モーターがゆっくり回りだし、そして徐々に強く回すなどが自由にできるようになったのです。これは、とても大きな変化ですが、これでもまだ昭和の時代の話です。半導体は、高速で入切できると書いたものの、その速度には限界があり、限界を超えて速く入切しようとすると壊れてしまうのです。
平成に入って、半導体はさらに進化しました。半導体はより大容量小型化し、さらに高速で入切できるように進化します。この結果、半導体で交流が作れるようになりました。交流とは具体的には、プラスとマイナスのそれぞれに半導体スイッチを用意して、0%→+50%→+100%→+50%→0%→-50%→-100%→-50%→0%となるように半導体を入切します。実際にはもっと細かくコントロールしていますが、この1サイクルを1秒間で行えば1Hzの交流電源を作り出せたことになります。交流が自由に作り出せることにより、交流モーターや、直流ブラシレスモーターを使うことができるようになりました。これらのモーターはメンテナンス性に優れ、小型で、かつ大きなトルクを効率よく得ることができます。
平成の中期には、さらに半導体が進化しました。コントローラーはさらに小型化され、半導体の入切速度もさらに向上しました。この結果、従来では半導体による電流の入切によって発生していたモーターから響く動作音も、人が音として感じにくくなるような高い音にまですることができました。テスラでは、モーターの音がほぼ無音に感じられるのも、半導体の進化によるものと言えるでしょう。さらに、コンピューターの高性能化も寄与しています。モータ-をコントロールするためには、どのように半導体を入切すればよいかをコンピュータ-が計算しているのですが、この計算速度が向上したため、ただモーターを回すだけでなく、より効率的な回し方ができるようになっています。
テスラの社名の由来にもなったニコラ・テスラは、交流電源を発明したことで有名ですが、交流誘導モーターも発明しており、テスラの車両にはこの交流誘導モーターが使用されています(最近の車両は効率化のため、一部交流誘導モーターではなくなりました)。
Historic electric motor with 12 Poles. Created by Nikola Tesla (Serbian-American inventor, 1856 - 1943). Wood engraving, published in 1898.
電気自動車はモーターに電気を送るだけで走るから、内燃エンジンのような緻密な制御が必要なく、誰でも簡単に作れる、と言われる方もいますが、その方のモーターのイメージは、おそらく昭和初期の技術、下手すると冒頭に例示した機器のイメージなのだと思います。現代のモーターは、ただ電気を接続しただけでは回転すらしません。テスラを買った人は、当たり前のようにアクセルを踏めば走り出し、離せば減速も思いのままですが、この当たり前の中には、この数十年の技術革新が詰まっているのです。そして、今後も進化を続ける電気自動車、そしてその先端をひた走るテスラから、これからも目が離せません。
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