テスラの情報
モーターの話(第1回)
2022.09.27
TOCJ会員の野村さんが、モーターに関する連載をしてくれることになりました。電車の整備をしているので、モーターに詳しい方です。今回はその第一回です。
電気自動車は、走行する動力に電気モーターを利用した自動車です。これに対して従来の自動車は、動力に内燃エンジンを利用しています。
既に電気自動車に乗っている方は、運転した時の独特な気持ち良さをご存じかと思います。思った通りに操れる感覚は、まさに電気自動車ならではのものと言えます。内燃エンジンには無かったこの運転感覚は、どのようにして生まれているのでしょうか?
電気モーターも、内燃エンジンも、回転力を生み出す機械であることに変わりはありません。運転した時の感覚の違いは、その特性の違いから生まれています。
内燃エンジンは、アクセルを踏んでから回転力が生み出されるまでの間に、空気と燃料を吸い込み、圧縮して、爆発させるという物理的工程が必ず存在し、それにはコンマ何秒かの時間がどうしても必要になります。
対して電気モーターは、アクセルの踏み具合をセンサーで検知してから、モーターに電力が供給され、モーター内で回転力が生み出されるまでの間に物理的な機構が存在せず、全て電気で完結できるので、かかる時間がほぼ0です。
この時間の差が、あの電気自動車独特の運転感覚を生み出しています。なので、電気自動車でありさえすれば、この性能を手に入れることは可能なはずです。
しかし実際に運転してみると、国内のハイブリッド車も発進時は電気モーターで発進しているにもかかわらず、テスラのような気持ち良さはありません。他の国内の電気自動車でも、同様に気持ち良さが感じられにくいです。どちらも同じ電気モーター駆動なのに、何故このような差が生まれるのでしょうか?
答えを聞くと、わざとそうしている、という答えが返ってきそうです。確かに設計思想がそうしている、ということはあるでしょう。しかし技術的観点からすると、最も大きな要因は、システム全体としての最大能力に差があることによります。
電気モーターが発生できるトルクは、電気モーターに流れる電流の大きさに比例しますので、電流を流すほど大きなトルクが発生し、早く加速できます。だったら、大きな電流を流せばよい、と思えますが実はここに障壁があります。
誰でも、おもちゃ用のモーターで、本物の自動車を動かせるとは思えないですよね。逆に、テスラのモーターでおもちゃを動かすことはできそうですね。ただし、おもちゃよりモーターが大きくなってしまいます。
モーターの力は、流れる電流の大きさで決まりますが、大きな電流を流すためには、それに耐えうる太い電線が必要になります。太い電線を使うということは、大きな体積が必要になり、結果としてモーターは大きくなります。大は小を兼ねますが、当然小さいほうが何かと有利なので、必要最小限の大きさになります。この結果、設計の段階において、必要とするモーターサイズが決められることとなります。
では仮に、国内の電気自動車にテスラのモーターを搭載したら、より速く走れるようになるのか?というと、それも難しそうです。なぜなら、バッテリーの構造が異なるからです。
これは飲み物に例えてみます。モーターを人間、バッテリーを牛乳とします。国内の電気自動車のバッテリーは、1つのセルが大容量です。なので、1リットルの紙パック牛乳を太めのストローで飲みます。対してテスラは、1つのセルが小さい代わりに数がとても多いです。なので、100mLの小さな牛乳パックを10個用意して1リットルにし、それぞれのパックにストローをさして、10本のストローを同時にくわえています。この状況で早飲み競争をした場合、小分けした方が圧倒的に有利です。なぜなら一気に吸える量が多いからです。
(作:みおさま)
テスラのバッテリーは、まさにこれを行っています。数千もの小さなセルに分けられたバッテリーにより、モーターに供給できる最大電流を飛躍的に増加させています。この結果、より大きなモーターを搭載し、より大きな最大トルクを得ることがでました。さらに、充電時にも大きな電流で充電できることにもつながっています。
テスラを運転した時に得られる気持ち良さは、大容量、大電流のバッテリーと、大きなモーターの相乗効果とバランスで成り立っています。アクセルを踏んだ時のレスポンスの良さのみなら、どの電気自動車でも得られますが、そのレスポンスの上限に十分な余裕を持っていることにより、テスラ独特の気持ち良さが生まれています。
次回は、モーターが電子制御されることによるメリットについて書きます。
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